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皆さん、こんにちは。学びの庭・塾長の柳です。
高校生の英語指導で、共通テストの過去問題から長文読解演習を行いました。
そのなかで、本文を読み進めているうちに、
「これは何か覚えがあるぞ。あ、これってもしかして…?」
と思う瞬間がありました。
アメリカのアマテュア写真家の話だったのですが、その半生を描出する英文から、徐々に、「この写真家、なんか知っているぞ」となったのです。
記憶の糸をたどること、コンマ数秒。…ああ、この女性写真家ヴィヴィアン・マイヤーは、数年前に小諸のフォト・フェスティヴァルで紹介されていた写真家だったのです。
英文に添えられたイラストの、二眼レフのカメラを持ったセルフ・ポートレイトに、何となく見覚えがあったのが、最初の、思い出せた取っ掛かり(フック)でした。[このフォト・フェスティヴァルについては、以前に塾長日記で話題にしたことがあります。2021/9/11「難解? 『光の化石』としての写真とは?」]
こうしたことが繫がってくると、俄然、英文は生き生きしてきます。ところが、生徒さんに聞くと、平成生まれ・令和育ちの彼らは、そもそもネガ・フィルムとポジ・フィルムの区別、いえ、それどころか、フィルム・カメラの存在自体を知らないのです。そんな生徒さんたちは、この英文の最後の一文、
So, one could say the mystery behind Vivian’s work remains largely “undeveloped”.
(2021年度共通テスト過去問題より。正当な理由による引用)
の“undeveloped”が読者をニヤリとさせる末尾であるということにさえ、気づきようがないのです。
developには現像するという意味があります。ですから、これは、
だから、ヴィヴィアンの作品の背後にある謎は、まだ大部分が“現像されていないのだ”ということができよう。
と和訳されるべきものです。“undeveloped”に対して“まだ開発されていない”という意味だけしか理解できないようではいけません。しかし、フィルムカメラの存在も、現像は暗室で行わなければいけないことも、現像液は酢酸臭いということも、何にも知らなければ、これはもはや如何ともしがたいです。
つまり、生徒さんは、今を生きているだけでは不十分なのです。広範な知識も、過去のことも、それなりに知っておかなければ、こんな些細なウィットの理解でさえもがスムーズにはできないからです。
どうぞ、知的好奇心にボーダーを作ることなく、鍛えていってください。