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皆さん、こんにちは。学びの庭・塾長の柳です。
今回の塾長日記は、《芸術の秋》特集、とでも言っておきましょうか。
塾長は大のクラシック音楽好きです。とりわけチャイコフスキーの交響曲第5番第2楽章がお気に入りです。最近、スコアを見ていて、いろいろと面白い発見をしましたので、この楽章の魅力とともに、ご紹介させていただきます。
※塾生の皆さんも、自分のお気に入りについて、言葉を尽くして熱をこめて語れるくらいにならなければいけませんよ。
①クラリネット・ソロは、ホルン・ソロの影。
オーボエ・ソロは、ホルン・ソロとの対話。
おそらく多くの指揮者が4つ振りにしているのでしょうが、この楽章は全体として基本的に8分の12拍子です。つまり、聴く側は、4つ振りの一つ一つのなかに常に3つの刻みを感じていなければならないということです。
冒頭の序奏に続くホルンによる甘美でもの悲しいソロは、まさしくその惹起音が(弱起の拍から)下降型の3つの音で始まります。下降型のフレーズが反転したり繰り返されたりしながら、全体としては上昇の波をつくっていきます。切なくも甘やかで感傷的、と同時に、胸の内に秘めた情熱の悲痛な叫びのような、魂を揺さぶる旋律です。
そのフレーズに重なるように始まるクラリネットのシャリュモー音域(クラリネットの最低音域)によるソロも、3つの音を重ねてホルンのエコーのように歌います。つまり、これは謂わばホルンの声の反映といえるでしょう。ホルンに寄り添い、融け合い、影のようについていきます。
それに対して、そのあとのオーボエによるソロはちょっと違います。19小節animandoから20小節sostenutoになったときに訪れるホルン・ソロの2連符による微かな揺らぎを受け、24小節Con motoから始まるオーボエ・ソロは、ホルンと互いに声を掛け合ったのち、animatoとなった26小節において、2連符の上昇フレーズで高らかに凱歌を奏します。これは明らかにこれまでのホルンによる嫋々たる歌とは脈拍の異なった歌となっています。
チャイコフスキーは、26小節後半でホルンを完全に黙らせてこのオーボエの歌を充分に響かせたあと、ホルンにも2連符の上昇フレーズでオーボエを追うように歌わせます。このホルンの沈黙と応答は重要です。つまり、このオーボエは、先ほどのクラリネットとは異なり、ホルンとは別個の自立した存在、向かい合ったもう一人の登場人物なのです。
まとめるならば、謂わば、ホルンという主人公に、クラリネットが輪郭線、光と影、陰翳を与えているといえます。これによって一人の内面を持った人物像が描き出されているのです。おそらく、ロマン主義的な苦悩と悲哀を抱えた陰鬱な美青年でしょう。
そして、オーボエは、この主人公の恋人ででもあると申せましょうか。脈拍(パルス)の異なる高らかな調べの歌を歌いながらも、彼女は彼の内向きでメランコリックな心を一心に解きほぐそうとしているのです。
……長くなりました。②以降は、また次回に。