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金木犀の香りが塾の入り口付近に漂っています。
皆さん、こんにちは。学びの庭・塾長の柳です。
昨日は、長野漱石会の講演で、話をさせていただきました。
題目は、
謎解き 漱石は近代人か
ー 『草枕』・『英訳方丈記および付録英文エッセイ』・インド洋上の英文メモをめぐって ー
というものでした。
上手に話すのは、なかなか難しいものですね。
どのくらい伝わったか、測りがたいものがあります。
頂いた感想は、「解説が丁寧で、とてもよく分かった。」というものと、「理解がついていかず、難しい内容だった。」というものに、大きく二分していたようです。
漱石自身が書いた難解な英文のテクストなどを用いたので、難しく感じられた方が出てしまったのかと思います。
(もちろん、塾長自身が翻訳した和文とともに解説したのですが。)
もし、次回以降、機会があれば、一つひとつゆっくりと確認しながら進められるようにしたいです。
参考までに、頂いた感想のなかから、いくつかご紹介させていただきます。
・柳先生の博識に感動しました。わかりやすい話し方でとても良かった。また教えてください。
・これまでの学習の中で、かなり難解であった。自分の感想とは違った解釈が多かった。(←では、どんな解釈なのか。登壇者としては、是非ともお教えいただきたかった。異なる意見、異なる解釈、大歓迎です。いまからでも、どうぞ、お教えください。)
・草枕と方丈記の違い、合致点が、何となく理解できたのですが、全体的には非常に難しい。
・柳さんのご講演で、もう一度漱石作品を読み直したく思いました。
・小説ではなく文明の批評家としての漱石に興味があるので、今回のタイトル、内容にとても興味がありました。江藤淳の漱石論もしっかり読んでみたいと思いました。たくさんの資料を用意していただき有難い発表でした。個性を殺して同一の方向へ行かせようとしている文明をあぶない、あぶないと表現していることは、今と通じていて、あぶない、あぶないと思っています。(現在と共通していますね。)
・グレン・グールドが「草枕」を愛読していた! なんて、すごいですね! 全く知りませんでした。「茫然たる事多時」な那美は、美しい謎ですね! 「漱石自身は、自作の翻訳を好まない」→そうだったんですか。 英語を教えていらっしゃるんでしょうか? すごくおもしろかったです。 メレディス「エゴイスト」はおもしろそうですね。(長いですが!)
・夏目漱石の先を見透かす目がすごいと感じた時間でした。
・英文、大変でしたけど、解説のおかげでずいぶん理解できました。
・1.大量の資料と情報を理解するのは相当困難。(自分の難聴も原因) 2.前半で印象に残ったのは、「四角の一つを切り取る云々」 3.後半方丈記関係は原文を読んだことがあり理解しやすかった。 4.No.15に至る説明を理解する余裕はなかった。 5,漱石は近代人か? ― 本日の答えは? Q[Quiz]形式があったのは良かった。 これを難儀なくやり取りできるまでになれば理想だが、時間と理解力不足か。 6.漱石のものの見方が大切。→近代人かという問いへの本日の答え?
いろいろな感想・ご意見、ありがとうございます。特に、漱石は近代人か、という大きな問いへの本日の答えは、なかなかに難問です。
とりあえずの答えは、
1.『草枕』は、中世の『方丈記』を明治期に受け継いで、『アンチ・方丈記』、ないしは、『続・方丈記』、『ポスト・方丈記』の意識で書かれたものなのではないか。共感を得られない自然(人でなしの国)の中に隠遁した鴨長明を矛盾していると捉えた漱石は、その矛盾を解決すべく、自身の小説では、主人公の画工を人でなしの国(非人情・出世間の国)に旅させ、その空隙を芸術論で埋め尽くそうとしたのではないか。ここに、同時代だけを見ていなかった漱石像が見えて来はしないだろうか。
2.漱石は、『草枕』で、近代的な人間精神のありよう(近代の哲学者エマニュエル・カント曰くところの「知・情・意の働き」)から離れた世界を描こうとしたのではないか。これも、近代からはみ出した、漱石像を形成してはいないか。
3.《縹渺》というキーワードが示す、主体と客体がそれぞれ無の状態で重なり合う不可思議な瞬間を、漱石は何度も描き出している。これも近代的知の発想からは突き抜けている。それを今回は、非ユークリッド幾何学の無限遠点の概念を用いた図でまとめてみた。いわば、近代のその先、現代(漱石にとっては、「二十世紀」という語で表現されるもの)を志向していたとは言えまいか。
……こんなところでしょうか。ほぼ、講演での話の繰り返しになっていますが。
また、ご意見など、お聞かせください。大変に貴重で、楽しい体験をさせていただきました。本当にありがとうございました。