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皆さん、こんにちは。学びの庭・塾長の柳です。
すごい雪ですね。ここ信州・小諸では、吹雪いてきました。塾生の皆さん、通塾時には充分ご注意ください。「学びの庭」は、余程のことがない限り休講にはしませんが、通塾が厳しい天候の場合は、無理せず、どうぞご相談ください。
さて、このたび、薦められて森見登美彦の新刊『シャーロック・ホームズの凱旋』を読みました。
塾長は、娘が小3の頃から、娘と一緒に楽しむために、シャーロック・ホームズのパロディを書き継いできていましたので、本作も興味深く読みました。
そうしたら、
似ているところもあり、吃驚!
ネタバレしないようにわざとわかりづらく語りますが……
ジェラール・ジュネットの『物語のディスクール』『続・物語のディスクール』『メタレプス』などで述べられているような、mise en abymeの背理型が使用されているところが似ていました。
塾長は、mise en abymeの連鎖型を用いています。
……よく分かりませんね? それでいいです。そうでないと、ネタバレになってしまいますので。
とりあえず、塾長が真似をしたわけではないということを、ここに宣言しておきます。
真似をしたのではないという証拠のため、塾長が娘のために書いたパロディ小説のタイトルと執筆時期を列挙しておきます。
『レンズの奥の虚像』
小説家シャーロック・ホームズの日常
1.ミス・ハドスンの繰り言*1 2015年5月
2.ワトスンの推理*2 2015年5月
3.奇っ怪な手紙*3 2016年6月
4.波のまにまに*4 2017年5月
5. まんじゅう、こわくない?*5 2020-2021年
*1 独白体小説 A4判1枚
*2 会話体小説 A4判1枚
*3 暗号解き、手紙文、夢の描出 A4判3枚
*4 『方丈記』の夏目漱石訳をめぐって A4判5枚
*5 夏目漱石『坊っちゃん』をめぐって A4判9枚
興味のある塾生は、塾長まで言ってきてください。無料でプリントアウトし、進呈します。(面倒でしょうから、こちらから「感想は?」とは訊きません。)
☆
さて、森見登美彦の『シャーロック・ホームズの凱旋』は、まずまず面白かったのですが、正直、塾長にはいくつかの不満が残りました。
塾長は、幇間(たいこもち)をする必要もなければ積もりもないので、率直に意見を述べます。
以下、ネタバレあり。注意!
・肝心な、洛西の《東の東の間》の謎は、二重のメタフィクションの構造を使おうとも、論理的にはまったく解決していない。
・それゆえ、12年前に14歳だった少女がそのままヴィクトリア朝京都のリアルタイムに現れた謎も、まったく解明されていない。(たぶん、作者にとっては、最初から解明する気のないファンタジーだったのだろう。そういうことを示さないで〈ホームズもの〉を書くというのは、ちょっとアンフェアなのではないか。)
・第1章のモリアーティの彷徨(徘徊?)は、無意味な思わせぶりに過ぎず、すでにそれよりも優れた有名な類似作品(ポール・オースター『シティ・オヴ・グラス』など)がある以上、驚きもないし、興ざめそのものである。
・最終章で、ホームズ・モリアーティ・レストレードらが大文字山にピクニックとは、いかにもいただけない。これではまるで、オオカミも羊もウサギもトラも、みんな仲良くお手々つないでランランラン、……あまりにも平和ボケ丸出しのおとぎ話ではないか。
・随所の表現が、グラナダテレビ版『シャーロック・ホームズ』(NHK日本語翻訳版)に依拠していると思われるのだが、それに関するクレディットがない。
とはいえ、全体としてなかなかスケールの大きい話になっていて、さすがプロの技だと感心もしました。もし映画化されたら、見に行きたいです。
森見登美彦の他の作品は、『夜は短し歩けよ乙女』『【新釈】走れメロス 他四編』くらいしか読んだことがありませんので、塾長にはよく分かりません。とりあえず、この作家の作品は、どれも、京都の町の力を借りて、全力でおふざけをするお話、というふうにとらえています。
娘は『有頂天家族』『熱帯』など、森見作品を多数読んでいるようなので、今度詳しく訊いてみたいと思います。