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皆さん、こんにちは。学びの庭・塾長の柳です。
黄色スズメバチが教室外の西側に巣を作ってしまっていたので、即、業者さんに頼んで取ってもらいました。本当は生態系は自然のままがいいのですが、こと人間の命や生活を脅かすものであれば、やむを得ません。(これはたとえば、ジュゴンやサンゴを守るために沖縄県民の命と生活をいつまでも脅威の下にさらし続けてはいけないのと同じようなものです。辺野古基地について最高裁判決が出たにもかかわらず速やかにそれに従わない現在の沖縄県知事は、もはや民主主義や法治主義の敵対者なのではないでしょうか。異論があれば、お教えください。)
さて、今回の塾長日記は、前回からの続きです。
話は花田清輝のものぐさ太郎考へと戻ります。
花田清輝はものぐさ太郎(ものくさ太郎)の《ものぐさ》は、ラ・フォンテーヌの「蟻と蝉」(日本ではイソップ寓話のアリとキリギリスの話として広く知られている)における怠け者・蝉のようなものではないという。また、オブローモフが小説『ゴンチャロフ』のなかで描いた怠け者・ゴンチャロフのようなものでもないと。
蝉やゴンチャロフの行為は、ブルジョワから見た貴族のそれなのだと。
われらがものぐさ太郎の行為は、権力や権威に対する抵抗の精神のそれなのだと。
……もう少し詳しくものぐさ太郎の物語そのものを追いましょう。
道端に寝そべっているものぐさ太郎に、土地の女が餅を5つ与えます。ものぐさ太郎は4つをぺろりと平らげますが、1つは道の真ん中に転がってしまいます。ものぐさ太郎は、それを取りに立ち上がるのも億劫なので、手元にあった竹の竿で、餅を奪いに来る犬やカラスを追い払いながら、日がな一日ボンヤリと過ごしています。
するとそこに、鷹狩りに行く途中の地頭が配下の者を率いて現れます。
「ものぐさ太郎とはおヌシのことか」
「皆がそう呼ぶということは、おそらくそうでしょう」
「なぜ働かぬ。土地をやるから百姓をやってはどうじゃ」
「いやでございます」
「では金を貸すから商売をしてはどうじゃ」
「ごめんこうむります」
「聞きしに勝るものぐさ男じゃ。では、おヌシはワシに何も頼みごとはないな」
「それならば、そこに落ちているお餅を拾ってくだされ」
な、なんと。これは、ほとんどそっくりそのまま、あのプルタルコスの『英雄伝』に書かれた、アレクサンドロス大王と哲学者ディオゲネスの対話そのものではないですか。(御伽草子の書き手はよもやプルタルコスは読んでいないでしょうから、これは花田清輝がプルタルコスをもとに脚色しているのでしょう。「原文に即して」などと言いつつも、原文とはずいぶん違っています。花田清輝はじつに人を食った男です。読者はわざわざ御伽草子の原文と照らし合わせはしまいと高を括っていたのでしょうか。……とはいえ、ここでいま再現した会話そのものも、花田清輝のものではなく、さらに塾長が脚色したものですので、あしからず。)
花田清輝はこのものぐさ太郎の言動を、労働者階級の資本家階級に対するストライキやサボタージュになぞらえて、《抵抗の精神》などと論じています。
これはしたり。
塾長は、それはないだろうと思います。
花田清輝も執筆している途中で分が悪いと思ったのでしょうか、このエッセイを自分の鹿児島時代・銀座時代・満州時代の思い出話と混ぜっ返した挙句、ものぐさ太郎のお話の後半に触れることもなく、適当に端折って擱筆しています。
しかし、何を隠そう(いえ、隠すまでもありません、皆さんもおそらくご存じの通り)、ものぐさ太郎は、実は、仁明天皇の第二皇子、二位の中将の子だったのです。
(労働者階級の権力に対する)《抵抗の精神》などという見解は、共産党に入党していた花田清輝の全くの妄想、全くの見当違いでしょう。
塾長から見れば、このものぐさ太郎のお話は、むしろ、貴種流離譚の変形だと思います。
ものぐさは、むしろ、根を詰めて働かなくてはならない者たちの憧れ。この話は信州は松本の新町というところに残る伝承だそうです。物語の後半、ものぐさ太郎は長夫として都に上り、そこで歌詠み名人(単なるものぐさではなく、やはり貴種そのもの)として名を上げ、妻を得て、血統もわかり、帝によって信濃の中将に任命され、故郷に帰り、そして裕福に暮らしましたとさ、というお話です。(花田清輝は、ものぐさ太郎のお話のこうした雅な後半部分を俎上に載せるのが都合悪かったのでしょう。自分の《抵抗の精神》という見立てが、完全に瓦解してしまうからです。天皇の孫が一介の地頭に抵抗? 噴飯物ですね。)
さて、花田清輝の牽強付会なものぐさ太郎考はさておき、塾生たちにとって、このものぐさ太郎というお話から得る教訓は何でしょうかね。
ふだん遊んでいるようでいて、妙に成績が良い人っていますよね。
でもそれは、すでにポテンシャル(潜在能力)を持っているからなのですよ。
(ポテンシャルを持っていない人が遊ぶところだけマネしてもダメですよ。)
……ということでしょうか。
そのあたりは、どうぞ皆さん、いろいろと考えてみてください。